おかしいぞ!? 中小企業税制

中小企業対策税制の目玉

No108_13343472「相続税の納税猶予制度」は中小企業のためになるか平成 20 年度の税制改正の目玉として掲げられているものが「中小企業の株式を相続した時の相続税の納税猶予制度」である。この制度は非上場株式の相続税の納税を猶予するが、事業承継相続人が死亡するまで保有しなければ相続税が免除されないと いう制度である。私どものお客さまで現在94歳の元気で矍鑠とした経営者が居られる。

80 歳代はざらである。既 に後継者に事業を託し悠々引退生活を送っておられるが、新設の制度を利用したならば、株式の譲渡や贈与もままならず、何十年もの間相続の納税を引きずらなければならない。

また、商法が会社法に改められ、会社制度が大転換し、会社組織の再編や会社分割、合併、分社化、子会社化、持株会社化など組織再編が自由にでき、M&Aなどを促進しようとしている矢先、何十年にもわたる株式の固定化は時代に反する政策と言わなければならない。

また、中小企業の生存率が云々されているとおり中小企業は極めて不安定な経営環境におかれており、企業体質は大企業に比べれば極めて脆弱である。不幸にして経営がうまく 行かず破綻した場合には、経営の負担のうえに相続税の負担が追い討ちをかけるような結果になり、再チャレンジどころか、決定的な「ダメ押し」の結果となってしまうであろう。

このような中小企業の事業承継者に終身の株式保有義務を負わせることは長寿高齢社会の現状に逆行する政策であると共に中小企業の実態を理解しない政策当局者の間違った政策である。

おかしい中小企業税制の他にも一昨年に施行された「特殊同族会社の役員の給与所得の一部損金不算入」制度は、新会社法で法人を設立しやすくなったことに伴い、節税を目的とした法人が多くなるのを防ぐということで、経営者の給与の約一か月分に相当する法人税を中小企業に納税させるというものである。

この制度はキャッシュの社外流出を誘い中小企業の体力を損なわせ、創業しやすい制度にしようという 会社法の精神に反するものである。さらに、相続に関連して言えば、これは相続税により財産を取得したときは相続税を課税し、所得税を課税しないという原則に反し、相続税と所得税の二重課税にあたるものといえよう。

相続により取得した財産の取得価額は、被相続人が取得した価格によることになっているのである。結果として、株式の相続に関して言えば、創業者が一株 50 円で会社を創業し、現在 50 万円に なっている場合、相続税 が一株 50 万円で課税さ れ、その相続した株式を50万円で譲渡したときは、 49 万9950円で譲渡所得が課税される。

中小企業税制の基本

私たちが望む中小企業税制の基本とは何か。いろいろな視点があるが、私たちが中小企業の現場で感ずるところを述べると、一口にいえば、「起業しやすい税制、事業を続けやすい 税制、事業を承継しやすい税制」である。

「起業しやすい税制」について言えば「資金調達が しやすい税制」であり、「エ ンジェル税制」や各種の創業支援制度がこれに当たる。「事業を続けやすい税制」では「利益を上げ、内部留保を厚くし、景気変動や激しい企業間競争に耐 えうるような強靭な経営体力の構築を支援するような税制」である。「事業 を承継しやすい税制」については「事業のゴーイング・コンサーンを前提とした税制」に組み替えることである。

心がこもっていない 中小企業税制と対策

このように見てくると平成 18 年の税制改正とい い、今回の税制改正といい、「中小企業経営承継円滑化法」を作り、基本法である民法を曲げてまで取組む中小企業対策である。 ならば、むしろ、その前 に課税の原則に則った「損益通算制度」、「繰戻し還付」制度、実質二重課税の 解消をすることが先であろう。 中小企業対策のアリバ イ作り的な施策は、かって の「特別融資」のように中小企業を塗炭の苦しみの 中に投げ込みかねないのでよく見極めなければなら ない。

[ 参考 ] 平成 20年度税制改正の大綱公式資料ダウンロード
http://www.mof.go.jp/ genan20/zei001.pdf

今回の話題の「取引相場の ない株式等に係る相続税 の納税猶予制度」について の記述は資料 17 ページに あります。

税理士法人 LRパートナーズ 代表社員 小川湧三

 


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