税制改正の行方

開けてびっくり、自民党税調の税制改正案

昨年末、税制改正の基本となる自由民主党税制調査会の税制改正大綱が発表された。今年の税制改正の特徴は「公的年金の破綻」、プライマリーバランスの悪化による「財政破綻」がクローズアップされてきたことから増税路線が明確にされたことである。

なかでも譲渡所得の税率引き下げと引き換えに譲渡損失の損益通算不適用が盛り込まれたことは、事前に検討されていた事項の中にはなく関係者の間に衝撃が走った。

所得概念の空洞化

譲渡損失の損益通算不適用は所得に担税力を求める所得課税の根幹である所得概念の空洞化を招き、所得課税の原則である課税原理に反するものである。

仮に「財政破綻」を懸念しプライマリーバランスを正常に戻すためとはいえ、この税制改正は所得課税の柱としてきた租税の根本原理に反する。利益が出たときに課税し、損失が出たときは控除しないという租税政策の方向は金融に関するモラルハザードの上に、さらに、租税に関するモラルハザード引き起こすものと言わざるをえない。

個人課税強化は消費を萎縮させる

「公的年金破綻」の対策として政策の重点は保険料負担の引き上げ、年金給付の引き下げ、高齢者(年金受給者)への課税の強化である。また、昨年改正された消費税の免税点の引き下げによる消費税の増税策は個人事業者を直撃し平均一事業者30万円以上の増税と予想される。個人事業者や高齢者課税の強化は消費を萎縮させる。

デフレ脱却に向けて

デフレ脱却の決め手はGDPの60%を占める個人消費の回復だと言われているが、個人増税を図る消費抑制型が打ち出された。さらに、譲渡損失の損益通算の不適用は、不動産処分のインセンティブを失わせ、さらに地域金融機関の再編が予想されるなか個人破産を増加させると予想される。

デフレ脱却を図るためには不動産を含めて流動性を高めることである。一時的に税収減になろうとも所得課税の原則に則って現在損益通算認められていない別荘等を含めた不動産処分による損失について損益通算を認めること、アメリカなど外国で認められているセカンドハウス取得に伴う利息の所得控除を認めるなど積極的な個人投資を認めるほうがより有効であろう。

この意味で税制改正はまったく逆の方向を向いていると言わざるをえない。

目指すべきは小さな政府

昨年後半から株価から見た景気はほっと一息つかせるものがあるが、10年以上続くデフレの中にあっていまだ先が見えない寒風の中で、吹きすさんでいた風が凪いで、あるいは政策的に震災非難小屋に入って一瞬ほっとしていると言うのが実感である。

しかし、昨年の足利銀行の破綻処理を見ると、来年のペイオフ完全解禁を前に今年の後半は事業者にとっては厳しい嵐が予想される。プライマリーバランスの回復は増税よりもまず公務員の削減、特殊法人の思い切った削減が先であろう。まず、隗より初めよ。

(小川 湧三)

 


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