揺れ動く有価証券税制

有価証券税制

証券ビッグバンによる証券行政の自由化に伴い決定された有価証券譲渡所得課税制度が揺れ動いている。

いわゆる申告分離課税制度と源泉分離課税制度が併存している現在の制度を、平成12年4月から申告分離課税制度に一元化する予定であったものが、景気見通しが不透明なために来年4月まで実施が繰り延べられたのである。

今年も予算編成時期を控えて株価が最安値を付けるなど政府の見解に反して経済は必ずしも先行きを楽観してはいないようである。このような背景から、申告分離課税制度への一本化に対して実施の繰延・凍結論、有価証券取引にかかる税率の引き下げなどの見直し論が出てきている。

証券税制の矛盾

税はもともと所得のうち生活費や将来の貯蓄・年金基金などを控除した可処分所得の範囲内でしか負担しきれないものである。

一方税制は簡素・中立・公平を原則として定められなければならないことは近代国家成立の過程が課税権を基礎として成立してきたことを見れば明らかである。発展途上国ならばともかく、世界第二位のGDPを誇る我が国ではできるだけ中立的な税制を心がけて欲しいものである。

申告分離課税の欠陥は、利益が出れば課税するが、損失を出したときは課税所得から控除しないところにある。また、源泉分離課税の欠陥は、いくら利益が出ても、損をしても取引額の1.05%の有価証券取引税まがいの所得税を課税し、実質非課税扱いと同様な状態になっていることである。

キャピタルゲイン課税は国によってまちまち

有価証券税制は昭和63年度までは原則非課税であった。キャピタルゲイン・ロスについては国民経済的にはGDPの計算に入らないため、世界各国では、非課税であったり、特別な課税制度をとっているところが少なくない。

しかし、個々人で見れば利益と損失が生じて発生しているものであるから、利益に対しては課税し、損失に対しては控除をみとめ翌年以後の所得との通算を認めている国も少なくない。

リスクをとれる税制を

簡素、中立、公平の課税原則からいえば、有価証券の売却益には課税を、損失については損益通算を認めるのが妥当である。社会はフリー・フェアー・グローバルのかけ声のもと大変革真っただ中にあって社会構造が大きく変わり「自己責任の時代」に入った。

国民に対して元本保証型の貯蓄から元本変動のリスク商品への投資へ、また、元本保証といえども金融機関の倒産が相次ぎ、既に国民に多大な損失を直接負担させる事態が生じている。2002年4月からさらに広範な金融機関に対しペイオフ制度が始まれば、さらに多数の国民がリスクに晒されることになる。

このような状況下で国民に「自己責任」を求めるならば、有価証券ばかりでなく金融商品全般について、利益に対する課税は当然として、損失については他の所得から控除できるようにすべきである。それでこそ国民は進んで「貯蓄から投資」へ向かうことができリスクを取った投資運用ができるようになるのではなかろうか。国民がリスクに立ち向かえる安定した税制を望むものである。

(小川 湧三)

 


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