海外通信 NO.128 意志のバトン:リビング・ウィル
2026年4月、日本で「デジタル遺言」の創設を柱とする民法改正案が閣議決定されました。相続手続きのデジタル化が加速する中、財産と同じくらい、あるいはそれ以上にデジタル化の恩恵が期待されているのが、医療の事前指示書、いわゆる「リビング・ウィル」です。
世界に目を向けると、リビング・ウィルの捉え方は国によって異なります。
特に自己決定権を重んじる【スイス】では、本人の意思表示に強力な法的拘束力が与えられています。スイスの医療現場では、本人の意思に反する延命治療は「身体への侵害」とみなされるほど厳格です。
また、2026年現在、スイスでは電子患者記録(E-HR)の改革が進み、救急搬送時でも医師が即座に本人の意思をデジタルで確認できる体制が整っています。
【アメリカ】でも「患者自己決定法」により、入院時に意思確認を行うことが医療機関の義務となっており、リビング・ウィルは個人の尊厳を守るための「盾」として機能しています。
一方、【日本】ではリビング・ウィルに直接的な法的拘束力を与える法律はまだありません。
しかし、厚生労働省は「ACP:アドバンス・ケア・プランニング」愛称:人生会議で、本人・家族・医療者の対話を推奨しています。日本におけるリビング・ウィルの役割は、単なる拒否の意思表示以上に、「残される家族の心理的負担を軽くする」という側面が強いのが特徴です。
何の指針もない中で延命の決断を迫られることは、家族にとって一生のトラウマになりかねません。本人の書面があることで、家族は「本人が望んだことだから」と、迷いなく決断を下すことができるのです。
今回の法改正により、将来的には日本でもマイナンバーカード等を活用し、リビング・ウィルをデジタルで保管・共有する仕組みが現実味を帯びてきました。「書いたけれど見つからない」という物理的な壁が、テクノロジーによって解消されようとしています。
こうした備えを後押しするため、いくつかの自治体では普及啓発小冊子を公開しており、インターネットを通じて誰でも手軽に活用することができます。
【記入例】
⒈ 具体的な「希望しないこと」から書く
(例:回復の見込みがない場合の人工呼吸器や胃ろうなど)
⒉ 自分の代わりに話す「代理人」を決めておく
⒊ 毎年の「誕生日」に内容を見直す習慣をつける
デジタル遺言で「お金」の整理を、リビング・ウィルで「命」のあり方を決めておく。私たちは大切な人へ、明確で優しい「意志のバトン」を渡せる時代を迎えようとしています。家族を迷わせないための最良の贈り物として、公的なツールも参考にしながら、ご自身の最期のシナリオを言葉にしてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
東京都ACPポータルサイト https://acp-portal.metro.tokyo.lg.jp/
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