相続税・贈与税見直し

党税制調査会税制改正大綱

 先月号「新税誕生前夜」というタイトルで書いたところ、週刊東洋経済(7月31日号)で相続税の改正について、自民党税制調査会が相続税・贈与税の見直しを答申していたことを次の様に報じていた。

 「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方を見直す」

令和3年度税制改正大綱

⑶相続税・贈与税の在り方

②資産移転の時期の選択に中立な相続税・贈与税に向けた検討

 (一部省略)諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。

 今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。

税調会長のインタビュー要旨

 甘利自民党税制調査会長はインタビューに答えて

 「資産課税は海外同様一本化が望ましい」として、「資産がある人にとって利用価値が高い制度は是正しないといけない。仮に節税ができるとしても、資産の大小に関係なく、公平・公正である必要がある。個人的には欧米などのように一本化することが望ましい」と、また、「少子化は日本の最大の課題であり、結婚や子育ての障害を取り除くのが基本的な考えだ。教育も自立して生きていくための能力だからしっかりケアをしないといけない。公平原則の基本を曲げても政策効果を優先する措置はあってしかるべき。」

と述べている。

節税封じ

 週刊東洋経済の記事によると、現在「暦年贈与」「相続時精算課税制度」の二本立てになっている贈与課税制度を「相続時精算課税制度」一本に絞る意図のようである。

 相続税の最高税率は55%である。相続税の最高税率まで行かなくても実務的には40%~45%が多いのではなかろうか。一方贈与税は贈与額100万円だと税額「0」:なしである。200万円だと税額9万円(実効税率4・5%)、300万だと税額19万円(実行税率6・3%)500万だと53万円(10・6%)1000万円だと231万円(実効税率23・1%)。

 相続税の限界税率と実効税率の差が節税額である。

 10年続ければこの十倍が節税額となる。

なぜ資産課税の見直し?

 なぜ庶民のささやかな節税自己満足を封じようとするのであろうか。

 8月17日の日経新聞の記事「富裕層増税 世界で模索」によると格差是正とコロナ後の財源探しにあると報じている。

 格差是正については、トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本論」で格差解消には何らかの資産課税が必要と提言している。

 財源探しについては先月号でも書いたようにコロナ騒動で第2次世界大戦を上回る財政支出が1年で行われたため、コロナ収束後、急速に悪化した財政を再建する必要があり、税源・財源として財産・資産に注目が集まってきているのである。

 ヨーロッパでは富裕税が一般的に課税されていた歴史があり、日本でも終戦直後富裕税が課税された歴史がある。

政府は既に準備完了

 しかし、富裕税の廃止の理由の一つになった資産の海外流出などについては、国際包囲網が出来上がったといってもよく、資産課税については政府は既に準備完了しているといって過言ではない。

 海外送金の停止や預金封鎖などは政府の権限でできるように整備されているし、財産の把握についても相続税申告並みの財産債務調書や国外財産調書、海外預金・金融口座の通報制度が実施されており、いつでも財産課税を実施する準備が出来上がっているのである。

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 

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