コストプッシュ・インフレ

本の帯から

「このインフレ、経済学者では手に負えない。」これは中野剛志氏「世界インフレと戦争」という著書の帯のキャッチフレーズである。いま、アメリカ、EUを席巻しているコロナ後のインフレを指しているのである。

渡辺努氏も「世界インフレの謎」の中で、今回のインフレについて、「米国のインフレは労働供給の不足に起因しており、需要ではなく供給によって生じています。供給サイドが原因になって発生するインフレというのは、現代の物価理論の盲点です。この盲点を踏まえて考え直したとき、その帰結はやや不吉なものとなります。しかし、もはやそこから目をそらすことを許さない状況となりつつあると言わざるを得ません。」(p.112)と述べている。この「供給サイドが原因になって発生するインフレ」をコストプッシュ・インフレと言い、第二次大戦後のインフレは需要が強いことに起因するインフレ(デマンドプル・インフレ)が中心だった。

今年のほっとタイムス1月号「未知の領域」で紹介したように、FRBも政策決定の重要指標となっているフィリップス曲線やテイラールールによる目標金利の異常にしばらく気が付かなかったが、異常に気が付いて昨年3倍速の利上げを行い、今年は急激なインフレがやや収まってきたが、まだ利上げ水準を維持する予定である。

グローバル経済の破綻

明らかになった中国の独裁政権化による米中分断、コロナとロシアのウクライナ戦争により自由主義的なグローバル経済が崩壊し、経済の供給体制も崩壊し、異常なインフレが起きているのである。ブロック経済化しブロック内供給体制ができるまでどのような経済事象が起きるか見通しがつかないのであろう。冒頭の言葉の由来と推察する。

インフレ率以上の賃上げ要求

岸田首相は通常国会の冒頭の施政方針演説で「新しい資本主義」の具体化の一環として、分配と経済成長の好循環のため「物価水準を超える賃上げ」が必要と訴えた。

賃上げは過去の事例を見れば遅行指標として考えられており、賃上げは後からついてくるものと思われる。インフレに先行して賃上げを求める気持ちは理解できないではないが、企業、特に中小企業では、企業の体力が続かず、雇用そのものが続かず、逆に中小企業の倒産、失業のリスクが高まるように考えられるがいかがなものであろうか。

輸入大国のアメリカではコロナによる物流停滞でインフレが始まり、コロナの回復による経済の回復過程において、人手不足の状態が起き、人件費の上昇につながった。

FRBも一時、一時的なインフレだと誤認したが、異常なインフレと認識してから緊急利上げを行ったのは前述のとおりである。

インフレが始まった

ある企業内食堂の利用者の話。「食堂のメニューが5品から2品になった」「牛肉などや魚が無くなり鶏肉だけになった」「今まで500円台の昼食が700円台に、高いものは1000円になった」こんな話をされていた。

エネルギー・食料を輸入に頼らざるを得ない日本は、電気料金の値上げに続きさらに約30%の規制料金の値上げ申請がなされている。
企業物価指数は以前から緩やかな増加がみられていたが、最終消費への価格転嫁がなされていなかった。

それが昨年から今年にかけて転嫁が始まった。昨年10月には7864品目、今年は新年早々5463品目、今年通して1万2054品目の値上げが一斉に始まっている。

政府・日銀は耐えられるか

冒頭に書いたように今回のインフレは今までの経済の枠組みと異なる新しいインフレの形態であって、経済学者も未知の領域に入ったと感じているのである。

経済停滞時には財政による経済刺激が有効とされているが、日本では財政危機が懸念され、IMF(国際通貨基金)は日本経済に関する年次報告書で「成長に配慮した形での財政再建を進めるよう提言した」。

自国通貨で発行される国債はインフレにならない限りいくら発行しても財政破綻は起こさない、というMMT(現代貨幣理論)が出てきたが、インフレにならないことを理論的に保障しているわけはない。しかし、いったんインフレが始まれば、そのインフレの抑制は増税すればよい、というのがMMTの理論である。

岸田政権は防衛増税、少子化対策増税などを提案しており、MMTの理論通りにハイパーインフレと大増税がくるかもしれない。

 

 

LR小川会計グループ
代表 小川 湧三

 

お問い合わせ

神奈川県川崎市で税理士・社会保険労務士をお探しなら

LR小川会計グループ

経営者のパートナーとして中小企業の皆さまをサポートします