長期金利上昇の影響


クローバー通信 No.212

日本の長期金利が上昇しています。昨年末の黒田総裁の発言を機に実質的な利上げ・金融緩和政策からの転換と見られています。
本当にインフレになるのか?日本の国債は大丈夫か?議論が分かれるところですが、以前から多くの識者が警鐘を鳴らしてきたことが、現実になってきています。

長期金利の上昇がどの様な影響を与えるか、見ていきましょう。

1 経済を取り巻く環境

世界各国はコロナウィルスが流行し始めた2020年から急激に景気が悪くなるのを防ぐために金融緩和政策を取ってきました。米連邦制度準備理事会(FRB)がゼロ金利政策をとると、金利が下がり企業が資金を調達しやすくなり、市場に出回るお金が増え、株価にはプラスとなりました。

しかし2022年欧米ではインフレが進み、米国の消費者物価指数は9%台まで上昇しました。家計や企業への影響も大きくなった為、FRBは2022年に政策金利を引き上げに転じ、0.25%(2022年1月)から4.5%(2022年12月)と大幅に金利の引き上げを行いました。

その結果、日米金利差が拡大した事などを要因に、一時1ドル150円まで円安が進み、債券・株式市場とも下落しました。昨年末には黒田総裁の発言を機に実質的な利上げとの観測から現在は130円を割り込む水準となっています。

2 インフレとは?

インフレとは「インフレーション」の略で、物価が上がり続けることを指します。普段日常的に購入している物やサービスの値段が上がっていく事です。消費が増えることで景気が拡大し、インフレーションが起こります。同じ紙幣・通貨で買えるモノが少なくなるので、紙幣・通貨の価値が下がります。

インフレの要因としては、物が不足する事によって起こる実物的インフレと、世の中にお金の量が増える事によるインフレの2種類あります。

景気が良くて世の中も安定している経済状態では、物価は年間で2〜3%上昇するといわれています。景気が良いために企業や個人の金回りが良くなり、それがモノへ向かうため、物価の上昇が起こるという仕組みです。

物価の上昇と同等以上に収入が上がれば生活水準は維持できますが、収入が上がらなければ生活は苦しくなります。この事を、不況下のインフレ=「スタグフレーション」と言います。

戦後の高度経済成長期の日本や、発展を続ける新興国などはインフレ率が高く、先進国では安定しているのが一般的です。

現在のインフレは、コロナ対策として米国・欧州はじめ世界各国でお札を大量に刷っている[量的緩和]の状態に加え、ウクライナ紛争や地球温暖化対策を背景としたエネルギー問題、物流・人的制限から、物の不足が起こった結果といえるでしょう。

3 日本の置かれている状況

現在日本の10年国債は日銀が買い支えており、市場の機能が働かなくなってきています。企業の資金調達や社債発行にも影響が出る事が懸念されています。金利上昇圧力はありますが、日本には1,029兆円(2022年12月末)の国債残高(債務)があり、その利払額を考えれば、簡単に利上げもできないのが現状です。しかしながら、日本国債への信用が疑われると、 ➡ 日本国・日本円の信用がなくなる ➡国債の価格が急落 ➡ 円の価値が急落しさらなる円安、になる事が考えられます。

◆ 特に影響を受ける資産

日本国債 :国債価格の暴落
日本円  :円の価値が下がる大幅な円安
預貯金  :預金金利が物価上昇に追い付かず、資産価値が目減り
貯蓄性保険:受取額が固定されており資産価値が目減り(変額保険を除く)
国内株式 :一時的に市場全体が暴落。特に日本国債を大量に保有している金融機関への影響大
外国債券 :一時的に世界の債券市場も混乱
住宅ローン:金利上昇で返済負担が増加

一番の関心は、住宅ローン金利の動向でしょうか。長く低金利が続いた結果、新規貸し出しの70%が変動金利を選択しています。変動金利は短期プライムレートに準じて変動するため、すぐに上昇する訳ではありませんが、金利が上昇し始めたら既に固定金利は高くなっている可能性があるので、今のうちに住宅ローンを固定金利に変更した場合の返済額や費用、変動金利の金利が上昇した場合の返済額などシミュレーションを行い、ライフプランに無理がないか確認してみましょう。また、利上げのタイミングで繰り上げ返済できるように返済資金を貯めておくことも効果的です。

4 長期金利の上昇の影響は?

米国は昨年3月から急ピッチに利上げを実施してきました。今の米国の経済の様子から、金利上昇に伴い、これから日本でも起こりそうなことを予想してみましょう。

各種金利の上昇:

住宅ローン、自動車ローン、クレジットカード・ローンなどの金利が徐々に引き上げられます。米国では昨秋以降、住宅価格が下落し、住宅市場の冷え込みが感じられます。また、中古車市場ではローンの支払いが延滞し、自動車が差し押さえられ競売が増えています。日本でも多重債務の世帯は注意が必要です。

物価上昇の継続:

ウクライナ、中東情勢など地政学リスクから、原油や天然ガス、鉱物資源等の産出や食糧生産、物流など、サプライチェーンの逼迫はまだ終わらないと見込まれます。予想外の戦闘やテロなど、物価上昇を引き起こすようなリスクに注意が必要です。

失業者の増加:

米国の失業率は堅調のように見えますが、実際はフルタイムが減り、パートタイムが増えています。日本でも正規雇用が減り、非正規が増えると予想されます。

増税:

政府は防衛費など支出を増やしているので、法人税、消費税、タバコや酒、ガソリンなど様々な増税が予想されます。インフレに加え、世帯の可処分所得は減るでしょう。

ゼロゼロ融資の終焉:

コロナ禍で金利ゼロ+担保ゼロの融資が実施されてきました。しかし、金利が上昇することで、借換えも新規借入れもできなくなります。売上の立たないゾンビ企業、赤字企業では返済がままならず、破綻の増加が懸念されています。

5 インフレに強い資産とは?

〈金融資産〉

❖ 株式

長期的なインフレの場合、株式の上昇が物価の上昇を上回るケースが多く、効果を発揮します。現在の日本の株式市場は、世界的に見て円安も重なり割安と考えられるので、長期保有するのであれば、買い時と言えるかもしれません。

❖ 外貨

資産の一部を外貨で保有する事は、資産の目減りを防ぐ効果があります。証券会社などを通じて、外貨MMF、外国株式型の投資信託など、基軸通貨のドルを中心にいくつかの通貨で運用すると良いでしょう。ただし外貨預金はペイオフの対象外です。

〈実物資産〉

❖ 金

急激なインフレの際には、短期的に株式や債券など金融資産の価値が下がり、金の価格が高くなります。金価格はドル建てで取引が行われるため、円安になると売買価格は高くなり、資産の目減りを防ぐことができます。

❖ 不動産

インフレで物価が上がると、不動産の価格や家賃も上昇する可能性が高くなります。値上がりした不動産を売って、売却益を得ることもできます。ただし、物件購入には資金が必要なため、小口資金で投資できるREIT(不動産投資信託)を活用するのも1つです。

まとめ

長い間デフレ下で物価が上がらず低金利に慣れてしまい、最近の食品やエネルギー価格の上昇は厳しく感じますが、資源を持たず食料自給率も低い日本では、避けられない流れといえるでしょう。加えて中国が世界の資源や食糧を買い占め始めています。価格の上昇が継続するだけでなく、手に入りにくくなることも考えられます。普段から食料の備蓄を心掛けた方が良いかもしれません。

住宅ローンの現在の金利は下げ止まりと言われています。各銀行も金利競争で利下げをしている分、今の金利を長期間維持するのは難しく、来年以降は変動金利も上昇推移に転じる可能性があるでしょう。2022年の動きからわかるように、金利も為替も動くときは急激に動きます。

想定外に備えて、準備しておきましょう。

 



 

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