美しい削減と希望ある発展

日本の国内経済は「失われた30年」から現在、世界的な流れから取り残されているような状況に変化がない。そのような状況で国内の大・中小企業は近年、売上が伸び悩む中で収益性を改善する動きがある。

企業収益の向上は魅力ある商品・サービスによる健全な値上げや、販売数の増加が理想的であるが、実際には売上高が伸び悩むのに対して、経常利益の改善が際立っている。いわゆる売上は伸びないがコストを削減することにより収益性を改善することで利益を確保してゆくという方法である。

あたかも競争力を高めるという思考がそのままコストを削減することと同義になりつつあるが、これを国際競争力として世界と戦う手法は、先進国のものではなく発展途上国のそれである。途上国は発展段階で安い労働力を武器に経済成長して国際競争力を高めるが、更に先進国の一員となるには、世界へ魅力ある商品とサービスを提供しなければ経済的に先進国とはいえないと考えるのは筆者だけではないだろう。

最近の国内企業の収益性改善には設備投資や人件費の抑制が寄与している。このことで派生する懸念として、生産設備やDXへの積極的な投資による収益性の改善からの成長と、成長によって人件費の増加が実現するという分配の好循環を弱めた可能性もある。

たとえば、この数年間の感染症対策により労働環境が通常では考えられないほどに変化を遂げ、雇用者の労働時間が大幅に減少して収益改善につながることも想像できる。残業代削減による改善は、競争力を高めるという意味では間違えていない。しかしそれのみでは、希望の持てる魅力ある競争力の上昇にはつながらない一面的なものに過ぎないし、残業コスト削減による成果のすべてが、その企業のものであるのかどうかを考えてみる必要もある。

製造業における職人は機械以上にコストのかかるものだが、職人を資産と捉えるか、給与を単なるコストと考えるかは、経営者次第であり、正解はないが、その考えに企業の将来が左右されるのは間違いない。

削る改善には合理性と効率性があり美しいが、発展する改善には喜びと将来性がある。豊かになった日本は貪欲に発展を求めなくなっているようだが、いつも前進は必要だ。



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