高齢者の財産管理 認知症に備えた金融サービス
クローバー通信 No.206
日本の65歳以上の高齢者人口は3693万人に登り、総人口の約30%を占めています。その中で介護が必要になった主な原因の第1位が「認知症」で、17・6%となっています(2019年国民生活基礎調査より)。
各世代の認知症有病率は、70代後半で増え始め、80代前半では男性20%女性24%、80代後半では男性35%女性50%弱、90歳以上では男性42%女性71%と、年齢が上がるにつれ高くなっています。
今回は、認知症への備えとして、金融機関が取り扱うサービスについてみていきましょう。
1 認知症と診断されると
認知症と診断されると、認知症患者の財産保護の観点から原則として本人が金融機関で預貯金を引き出せなくなります。また、証券口座で保有する株式や投資信託、不動産の売買もできなくなります。
どんな時に預金口座が凍結される?
⒈ 診断され、家族が告知する(使い込みなどの防止の為)
⒉ 診断され、店頭での取引や応対などで金融機関の担当者が気付く
⒊ 診断されなくても、言動より金融機関の担当者が判断能力がないとみなす
実際には、本人や家族から告知がなく、言動に著しく問題がなければ、金融機関ではわからないのが現状ですが、認知症の発症がなくても対策をとるようにしていきましょう。
2 銀行のサービス
全国銀行協会のガイドラインでは、医療費や介護費用など本人の利益が明らかな使途について親族が代わりに引き出せる場合があるとしていますが、金融機関によって対応は異なります。
認知症と診断される前の対策としてどのようなものがあるでしょうか?
◆ 代理人カードの発行 生活費などの使用に

各金融機関で代理人名義のキャッシュカードの作成ができます。
あらかじめ引き出しや振り込みなどに対応する専用口座を決め、代理人カードを発行するとよいでしょう。
主な条件:
① 本人と生計を共にする親族(配偶者・親子)1名
② 本人による申込み
金銭信託を使ったサービス
金銭信託は主に信託銀行が利用者に代わって資金をまとめて管理・運用します。元本保証で預金保険制度の対象となっています。また、下記の信託契約は、遺産分割協議の対象外となります。
◆ 解約制限付(セキュリティ型)信託 振り込め詐欺を心配するなら
資金を守るため、解約や引出に制限がついている商品です。
まとまった資産があり、詐欺被害などを防止したい場合に検討するとよいでしょう。
① 本人だけでは払い出しができず、あらかじめ指定した代理人・同意者の同意が必要
② 最低預入額、払出しの金額・条件に制限がある
◆ 認知症対応金銭信託 代理人による出金が可能
認知症と診断された時に家族が出金できる信託商品です。預入額500万円以上が主流ですが、200万円からできる商品もあります。
① 手続き代理人を指定する(3親等以内の親族、4親等の商品もあり)
② 必要に応じて信託金額を追加できる
③ 毎月の定額払出サービスがある

◇ A社:10万円以上の介護費用・医療費など使途を限定し、金融機関が請求書などの記載事項を確認し、医療機関や介護施設に直接、または本人口座や手続代理人口座に支払いをする
◇ B社:資金の払出時に、専用アプリなどで後見人や代理人以外の家族などに通知し、一定期間を置いた後でないと出金できない など
信託期間が長期にわたることも考えられるため、信託する金額や、手数料についてもよく確認しておく必要があります。
どのサービスも、認知症と診断される前に、本人による手続きが必要です
3 保険会社のサービス
80歳でも加入できる終身医療保険が増えたこともあり、保険に加入する高齢者は増えています。契約者や被保険者が請求できない場合に、事前登録により親族による請求が可能になります。
◆ 保険契約者代理制度
大手生保の一部で導入。あらかじめ登録した家族などが代理人として、被保険者の契約内容の照会や住所変更、保険金の請求や解約などの代理手続をすることができます。
◆ 指定代理請求制度
契約内容の照会と保険金請求が可能
◆ 家族情報登録制度
契約内容の照会のみ可能
◆ 生命保険契約照会制度
平時・災害時の死亡の他、認知症と診断された場合に、家族の保険契約の有無を一括で確認できる制度です。法定相続人や3親等内の親族が利用可能。1回3,000円で、照会する際に戸籍や診断書など書類の提出が必要です。
4 証券会社の対応
証券取引は特に自己責任が問われるため、本人の判断能力の有無が重要となります。判断能力がなくなれば、商品の保有はできますが、新たな取引・商品の売却・解約などはできません。代理人制度はありますが、正常な判断を下すことができる状態にあることが前提となっているため、取引できません。ファンドラップなどの場合は、事前の契約により、定期的に資金化して口座へ送金してくれるサービスがあります。
その他に、家族信託などを利用して信託口座を作り、取引する方法もあります。
5 不動産を保有している場合
不動産を保有している場合は、別の対応が必要です。
◆ 家族信託 認知症と診断される前に
家族間で契約を交わすことにより、親が財産管理を託すことができる仕組み。財産管理の方法や範囲を指定できる
◆ 成年後見制度 認知症と診断された後なら
家庭裁判所に申請して、成年後見人をつける制度。本人に代わり、財産管理や契約などの行為を行う
◆ 代理出金口座付遺言信託 認知症の家族のために
家族それぞれの暮らしをサポートするよう、遺言書を作成し、相続人ごとに希望する使い道とともに、相続財産の一定の金額を専用の信託口座に残すことができる大手信託銀行の商品です。
受益者(家族)が認知症になっても、代理人を設定することで、使い続けることができます。 200万円程度~
遺産分割前の相続預金の払い戻し制度
口座名義人が亡くなり、遺産分割が終了するまでの間であっても、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要になった場合に、相続預金の払戻しが受けられる制度で、2019年7月より施行されています。
相続紛争が起きていない場合は、相続預金のうち、口座ごとに一定の金額を、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
まとめ
預金者の口座情報をワンストップで照会できる窓口はありません。銀行口座がどこにあるのか、生命保険の加入状況、証券口座の有無など、最近ではインターネットバンキングを使う高齢者も多く、デジタル化された財産を探すのは非常に困難です。
金融機関名・口座番号とともにログインIDやパスワードなどを、ノートなどにメモしておき、信頼できる家族に伝えておきましょう。
早めの対応がカギとなります。
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