昭和59年化学品卸会社での出来事【Ⅱ-❹】

ぜい昔話 エピソードⅡ  ❹

一枚の資料 それはドラマの始まりだ

ぜい昔話
昭和59年の丸の内

主要な売上、仕入、外注費科目を眺めていたら、ハッとする取引が目に入ってきた。それは紛れもなく同一商号の資料誤りかと判断していた一枚の資料の名前の外注費計上であった。

そしてすぐに頭をフル回転させ、資料内容を思い浮かべた。300枚以上もある一般資料からその一枚が気になっていたのは調査法人への代金振込で、その住所が山奥の遠隔地であったからであった。

しかも、会社計上は外注費であって、売上ではない。これは怪しい。私の記憶違いではない。そこで、特官に今すぐに税務署に戻って、確認したい資料があり、即座にその足で追加調査を実施し、当法人には夕方までには戻るので時間稼ぎをしてほしいと伝え、会社を後にしたのは正午過ぎであった。

食事も取らずに署へ戻った私は当調査事案の税歴表の一般資料せんを探し出すと私の記憶違いではなく確かに某県の辺境地の会社(それは今日見た外注先)の名称での外注費の取引資料せんで、調査法人の商号の間違いはないが住所が若干誤って記入されていた。その振込先銀行支店名は間違いなく当法人のメイン銀行であった。

すぐさま追加調査の準備をし、そのまま調査先に飛び込んだ。そこでは幹部が応対し、私の要求通りに総勘定元帳から当法人へ送金されてきた公表簿外申告書にはその店との預金取引は計上されているが当該預金は帳簿に存在せず、裏預金となっていることを言う)取引の当初取引から現在までを把握した。その金額は私の想定していた内容を遥かに超えていた。

なんと3年以上も前から毎月数百万円の金額で取引されてきており、出金はほとんどなく入金取立目的の口座で、残高が異常に多くいわゆる税務用語で典型的な逆L(売上除外・架空仕入・架空経費など不正計算の取引の動きの総称入金が多く出金が少ない形が逆L型となっているため)を表していた。

また、関東圏の辺境地の会社からも同様の取引があり、その取引は多額で全て現金であった。その伝票の筆跡には独特の癖があり、¥マーク、7、2は独特でかつ異常に傾斜のある字であった。その印鑑・筆跡をトレーシングペーパーで上からなぞって書き写して調査先を後にした時、私は昼食を食べていないことに気がついた。だが、すでに午後4時30分を回っており、急いで特官の待つ丸の内の調査法人へ戻った。

調査法人の会議室に戻った私は簡単に調査の結果を特官に報告するとともに当法人の帳簿調査は明日で終了して3日目はキャンセルすることに決め、会社関係者にその旨を伝達した(3日連続調査が2日と減少するので調査先は喜ぶ)。

逸る心を沈めつつ、明日の帳簿調査に必要な帳憑の種類とその期間を述べながらこれまでの内容については絶対に会社側に気付かれないように細心の注意を払った。会社を後にする際にも、今日使用した帳簿類を元のダンボール箱に仕舞い、私がつけた付箋のコピーを依頼しながら、忘れ物や当方の書類がないか細心の注意を払って署へ戻り、今後の調査展開の打ち合わせを特官と行った。

ここからが法人税調査の腕の見せどころである。いかに速く(機動性)、いかに正確に(正確性)、いかに秘密裏に(機密性)、真実に迫れるかは調査担当者の展開次第なのだ。

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