昭和51年のある衣料品卸問屋での出来事【Ⅰ-⑥】

エピソードⅠ-⑥

これはまるでドラマだ

だが、もう時間はない。夕闇の時刻が近い。大通り沿いを歩きながら、電話ボックスをみつけ、10円玉を入れ、上司に電話をかけた。上司に今日の出来事を端的に報告するとともに、今後どうすべきか迷っていると伝えると「良く頑張った。素晴らしい。老舗にたった1日という調査制限の中で、大量の取引からたった1回でも現金売上除外の事実を把握するなんて素晴らしい。だが、ここからが大事だ。今から言うことをよく聞いて、ミスのないように行動しなさい。特に社長と税理士との言動に注意を払いなさい。まずは発見した仕切書の束をできるだけ古い年分まで確保してダンボール箱に詰め、次に仕切書の束の年分に合わせてレジペーパーをダンボール箱に詰めなさい。その上で、借りた書類の借用書をカーボンで2部作成して1部を社長に交付するように。タクシーを会社の前に必要台数止めて、ダンボール箱を載せて一緒に帰ってきなさい。」【証拠書類の確保の重要性】 〜(書類の破棄、喪失の防止)

ぜい昔話

果たして、社長または息子に真実を問い詰めないで帰っていいのか。今、売上除外の不正発見の時点で間髪をいれずに問い詰めるべきではないのか迷っていた。そのことを隠しながら老舗呉服問屋の老社長と老齢の税理士と対峙し、仕切書の束とレジペーパーの束をダンボール箱に詰め、借用書を作成した。2人とも押し黙ったままで不気味であった。これだけ紳士な2人なのだから、社長または息子から売上除外の不正発見の動機や資金の行方を問い詰めるのはよそう、逆に考えるチャンスと時間を与えようと思い「本日はお忙しい中、協力いただきありがとうございました。」と礼を述べ、タクシー数台に書類入ダンボール箱を大量に詰めるとすし詰め状態の人で賑わう狭い路地を後にした。タクシーも入れないような狭い路地での作業に注目が集まった。

これはまるでドラマだ。

堀留町の税務署入り口にタクシーを乗り入れると50代の統括官と部門の先輩達が7人程待ち受けていた。全員でダンボール箱を3階の法人税部門の机にエレベーターから運び込むと「今日から2人1組となって、部門の者だけで仕切書とレジペーパーの照合作業を5年間分作業する。これは全て残業で行う。先輩後輩の垣根を超え5年分の売上除外金額を正確に把握することに全力で取り組むことになる。」その甲斐もあり、1週間後には正確な売上除外金額の総額が算出できた。

その後、担当税理士と社長が預金通帳・会社実印を持って署へ現れた。「今回このような不祥事を起こして申し訳ありません。除外資金は息子が競馬等ギャンブルに使っており、残金はなかった。その責を負い、今後このような事のないように、努力いたしますので今回の調査についてはすべて署側の判断に従います。」と社長名義の個人定期預金を呈示したのであった。そして、年内に事実説明書・修正申告書を受理し、追徴本税額の納付を確認した。私は今回の調査で初めてその全貌の把握とともにその原因として、競馬等ギャンブルは人を狂わすことを知った。

▶︎▶︎▶︎ エピソード Ⅰ はこれにて終了 ▶︎▶︎▶︎

 

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