第四の事業承継モデル

コーオウンド・ビジネス

会長

最近、CO-OWNED BUSINESS:コーオウンド・ビジネス(従業員が所有する会社):2015年出版、細川あつし著を読んだ。本書は日本で初めてのコーオウンド・ビジネス(従業員所有事業)に関する書籍である(p.6)。

第一感は第4の事業承継のモデルになるのではないかとの思いであった。コーオウンド・ビジネスは従業員が所有する会社で英米で潮流となっている新しいビジネスモデルだとのことである。

米国を例にとってみると、コーオウンド会社のほとんどが採用しているESOP(Employee Stock Ownership Plan:従業員株式所有制度)の導入企業は11,500社(2011年時点)にのぼり、ESOP企業の社員は全米民間雇用の10%、1,000万人を占める。このうち4,500社が過半数社員所有、3,000社が100%社員所有である。

日本の従業員持株制度

日本でも従業員持株制度があるが似て非なるもので日本の制度は「従業員の財産形成を促進してその生活を安定させること、および会社の利益との共同意識を高めることにより従業員の勤労意識を向上させてその能率が増進すること、会社に対して長期的なコミットメントを持つ従業員株主を育成することなどで、会社の利益の向上につながる」(p.162)として従業員の福利厚生の側面から導入された制度と言えるのである。したがって従業員持株制度加入者の株式保有比率は1.09%に過ぎない。

一方、コーオウンド・ビジネスにおける従業員の株式保有割合は50%~100%の会社が7,500社にも及ぶのである。当然ESOPの延長線上にあるため50%以下の中にはコーオウンド・ビジネスのひよっこたちの会社も少なくないとのことである。

コーオウンド・ビジネスの中核

コーオウンド・ビジネスは1920年にイギリスで第1号が誕生したといわれている。

コーオウンド・ビジネスとしての特有の企業文化があり、いわゆる株式会社から想像される株価第一主義や、利益第一主義とは全く異なる企業文化を持っており、いわゆる事業承継で取り上げられるM&Aにおける理念や価値観とも異なる文化や価値観により成り立っている。

一言でいえば、「社員の最大幸福」を追求するビジネス・モデルであると感じるのである。

「社員の最大幸福を追求していくと、社員が働く地域とのかかわりがごく自然に命題として挙がってくる。パートナーたちは社員であると同時に家族を持ち、恋人や配偶者を持ち、親であり、健康や環境に問題意識を持つ市民でもある。家族、仲間、地域、コミュニティ、環境とのかかわりはパートナーたちの幸福に直結する。」(p.9)

コーオウンドビジネスの中核にある理念は、地域に密着し、地域とともにあり、

○社員の株式所有と情報共有
○プロフィット・シェア
○オーナーシップ・カルチャー

がコーオウンドビジネスの理念の中核をなす三種の神器である。この詳しい説明は前掲書に譲るとして、そこに働く社員が、「最大幸福を実現するための組織体というべきであろう。」

第四の事業承継

「英米でコーオウンド・ビジネス・モデルが普及した最初のきっかけは、オーナー経営者たちの事業承継対策としてだった。息子や同族で事業を引き継いでくれる者がいない。競合他社やファンドに会社を売れば自分は売却益を手に入れられるが、それは社員を苦しめることになるし、何より自分が手塩にかけて育てた会社がこの世から消えてしまう。そんなことはできない……という悩みの中から生まれたのがコーオウンド化という道だった。」

「オーナー社長たちは最初はおっかなびっくりで、少しずつ株式を社員に渡してこのモデルを進めた。ところが、いざやってみると会社の雰囲気がどんどんよくなり、業績がぐんぐん伸びた。これに気をよくしたオーナーたちはコーオウンド化を一気に進めていった。」(p. ⅳ〜ⅴ)

私は長年事業承継に携わってきて、結局は良い会社にしておけば社員・従業員が幸せになれる事業承継ができると確信するようになった。良い会社の状態を維持したければその状態を作り出してきた社員・従業員がいなければならないのである。オーナーが誰になろうと良い会社の状態を維持するにはそれを作り出している社員・従業員が主役だからである。

 



税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 

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