第26回 量子コンピュータの出現で変わるセキュリティ対策

情報セキュリティ連載

2019年10月23日に米国検索大手Googleが従来のスーパーコンピュータで1万年かかる計算を量子コンピュータが3分20秒で答えを出したというニュースが報道されました。その後英国の科学雑誌「Nature(ネイチャー)」で正式に論文発表されました。

発表の内容

この発表は難しい計算を3分強で解くというような物凄いニュースに聞こえますが、量子コンピュータの歴史上の第1歩を踏んだというようなものです。

条件に与えた計算例は量子コンピュータにとって有利な計算条件であり、スピードが早いということではなく、量子コンピュータの特性を利用した計算(通常では膨大な時間がかかる計算)を3分で解いたという事実が歴史的な事として論文として発表されました。これを「量子超越性」といいます。では、なぜそれが歴史的なことなのでしょうか。

量子コンピュータとは

まず、量子とは物質を構成する原子や光子、中性子など物質を構成する小さなエネルギーの単位のことです。

この量子は、特定の条件下で重なったり、もつれたりします。この特性を利用した計算機を量子コンピュータといいます。

量子コンピュータの得意分野

量子の特性である重ねあわせは立体的に上に何千と重なるように並列計算を同時に行うことができるため計算があっという間にできてしまうというものです。そのため、難解な素因数分解や通常のコンピュータが時間がかかってしまう「組み合わせ最適化問題」もあっという間に解いてしまいます。

今回のGoogleの発表はこの「量子超越性」を実証したということで、歴史的な事として取り上げられました。

完成はまだといわれるが…

今回のGoogleが用いた量子コンピュータは53量子ビットというビット数の演算装置です。

実用性が出てくると言われるのは500量子ビット以上(諸説あり)と言われており、量子コンピュータ単体ではまだまだな状況です。

そう聞くとまだ実用的ではないと思われますが、実はすでに複数の企業で利用されています。

なお、量子コンピュータには「量子ゲート方式」「量子アニーリング方式」があり、今回Googleから発表に使用されたのは「量子ゲート方式」で、実用として先行して使われているのは「量子アニーリング方式」です。以下の企業例は「量子アニーリング方式」を採用している例です。

量子コンピュータを利用する企業

予約サイトじゃらんでは旅館の検索マッチングにこの量子コンピュータを利用し始めています。

従来の検索技術では多くの条件を検索結果に入れてしまうと、通常のコンピュータでは結果を出すのに多くの時間を使ってしまい現実的ではありませんでした。

そのため、似通ったタイプのホテルばかりがヒットしてまう状況でした。

これに対し「組み合わせ最適化問題」を得意とする量子コンピュータは、この多くの条件を短時間で反映させることができ、じゃらんではまだ一部ですが検索に量子コンピュータを利用し、多くの異なる条件ながらも検索者が好むような検索結果を出せるようになっています。

フリーマーケットアプリを運営するメルカリでは売り手と買い手のマッチングにこの量子コンピュータを利用し始めています。

例えば同じ商品輸送が東京から沖縄間と沖縄から東京間の間で2つ成立するようなケースがある場合、通常では2つ別々の取引として成立させ輸送しています。量子コンピュータを利用してマッチングや予測行動を計算させることでこの取引を東京間と沖縄間で成立させることで輸送のコスト、CO₂を下げることができ、これを実用化していきたいとしています。

量子コンピュータはエコな世界を作る

量子コンピュータは、組み合わせ最適化問題を得意とするので、物流のルート最適化で排ガス問題を下げたり、災害時にどこから浸水するか等の時間帯や場所が正確に計算できたり、物の作り過ぎを抑えることで食品ロスの問題(日本の年間食品ロスの量は650万トンで貧困地域に供給される食品350万トンの2倍弱となっています)に利用されだしています。

量子コンピュータの出現によりセキュリティ対策も新たな時代へ

量子コンピュータはパスワードの暗号を解読する計算も得意としており、そのため量子コンピュータが実用化されると、通常のパスワードが破られてしまうという重大な問題を抱えています。

そのため、Googleの量子超越の発表があった後、暗号資産のビットコイン等の価格が800ドル程の大幅下落、金融関係者からも不安視するニュースがでました。

現在53量子ビットですが、実用化とされる500量子ビットまでまだ10年単位の時間がかかりますが、量子耐性のある暗号方式に変更するなど現在使用しているIoT機器類を量子コンピュータでも破られない構造のパスワード方式に変更するなどの準備が必要です。

ただ、いつ暗号解読が起きるかは誰もわかりません。量子超越も予想ではもっと遅い時期に起こると想定されていました。おそらく今予想されているより早く実現すると思われます。

今から出来る準備を

従って今から個人でできるセキュリティ対策として、プライベートな写真等のデータはパソコンやスマホ内に入れておくのではなく、マイクロソフトやGoogleのような量子コンピュータの開発をしているようなクラウドサービスに預けるようにし、個人で守ることは避けるようにしましょう。いざ、攻撃が起きても大事なデータは量子コンピュータを研究・開発している企業に預けたほうが断然安全です。

力がある量子コンピュータのうえ、良い面・悪い面にも大きな影響を与えます。今後、量子コンピュータに関するニュースは増えるので注目していただければと思います。

《参考文献》
寺部雅能他著『量子コンピュータが変える未来(オーム社)』
アンドリュー=マカフィー著『プラットフォームの経済学(日経BP社)』

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