家族信託を活用した相続対策その①

第305回 財産承継研究会

家族信託を活用した相続対策その①

講師
宮田総合法務事務所所長・司法書士宮田浩志氏

★はじめに〜信託とは〜

「信託」という言葉を聞くと、何か難しいもの、自分には関係ないものだと捉えてしまう方が多いと思います。まずは、信託の定義を再確認し、誤解やマイナスなイメージを排除するところから始めたいと思います。

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⒈「信託」とは

「信託」とは、財産の所有者(=委託者)が、特定の目的(=信託目的)に従って、その保有する財産を信頼できる個人・法人(=受託者)に託し、誰か(=受益者)のためにその財産の管理・処分を任せる仕組みのことです。つまり信託は、財産管理の一手法と言うことができます。

⒉「信託」≠「信託銀行の業務」

「信託」と付く身近な言葉のひとつに「信託銀行」が挙げられます。そのため、「信託」とは信託銀行が業務として行うものである、という誤解が多くあります。

しかしながら、信託銀行が行う法律用語としての信託は金融資産のみを対象とし、原則として不動産は預かりません。また、信託銀行の業務の中に「遺言信託業務」がありますが、これも遺言書の作成・保管・執行という一連のサービスの総称に過ぎ
ません。

つまり、信託は信託銀行が業務として行うものだけでなく、資産の大小に限らず親族間でも利用できる身近な財産管理の仕組みなのです。

⒊「信託≠投資信託」

もうひとつ「信託」と付く身近なもので「投資信託」が挙げられます。投資信託も信託と混同されやすいものですが、端的に言うと投資信託の主な目的は、資産の運用・拡大です。それに対して信託の目的は、財産の管理・承継を手助けする仕組みを作ることにあり、財産を増やすことを主な目的とはしません。

このように、信託と投資信託も利用目的の面で違いが見られます。

⒋「家族信託」とは

信託は大きく分けると2種類あります。信託業の免許を持つ受託者に預け、その受託者が報酬を得て行う信託を「商事信託」と言います。反対に、信託業の免許を持たない受託者に託す信託を「民事信託」と言います(現在の信託法は平成19年に施行されました)。

その民事信託の中でも、家族や親族、子供や孫等の親族が設立した法人等を受託者として託
す仕組みで、「家族型の民事信託」の俗称を「家族信託」と言います。これは、「家族の家族による家族のための財産管理手法」で、様々な条件の家族に柔軟に対応した相続対策が可能な仕組みです。

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★信託活用のメリット

相続対策に信託を活用するメリットとして、以下の3点が挙げられます。

一つ目は、委任契約の代用ができることです。委任契約は、委任者が元気なうちは問題ないのですが、例えば認知症等の病気になってしまった時、本人の意思確認作業を回避することができず、その後の相続対策が困難になるという問題点があります。一方信託は、委託者が元気なうちに契約しておけば、受託者は信託目的に従って財産の管理・処分をすることになるので、行動の度に委託者の意思確認をする必要はなくなります。

二つ目は、成年後見制度の代用ができることです。成年後見制度を利用すると、後見人の行為は原則として被後見人の日常生活に必要最低限の財産管理・処分に限られ、生前贈与や借入を利用したアパート建設といった相続税対策や、投資商品の購入といった積極的な資産運用をすることができません。また、一度後見人になってしまった人は、被後見人が亡くなるまで、その全財産の管理と家庭裁判所への定期的な収支報告の義務が発生するため、その負担も多大なものになります。これに対して信託は、元気なうちから財産の管理・処分・運用を任せつつ、本人の判断能力がなくなったとしても引き続き積極的な資産運用を活用した相続税対策が可能になります。

三つ目は、遺言の代用ができることです。通常の遺言では2次相続以降の資産承継先の指定は、民法において無効とされています。しかし、信託を活用することで2次相続以降も資産承継先を指定することが可能になります。これを特に「受益者連続型信託」と言います。

つまり、信託は委任契約・成年後見制度・遺言の機能を一つの契約で担うことができ、さらに幅広い財産管理・承継方法を設定することが可能になる仕組みであると言えます。

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★さいごに

「家族信託」は信託銀行等に財産を預けるのではなく、家族が財産を管理するという誰でも気軽に利用できるとても身近な仕組みです。また、従来利用されてきた委任契約・成年後見制度・遺言等の限界を超えた柔軟な財産管理・承継の手法として利用していくことができる仕組みです。

これからの財産承継対策や相続対策の選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。

 

♥ 次回の財産承継研究会の開催日 ♥

2014年7月25日(金) 18時30分~20時30分

☎044-811-1211(石井・駒まで)

お申し込みは こちら

 


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