賃貸物件の建築診断・資産維持・大規模修繕について

第297回 財産承継研究会
賃貸物件の建築診断・資産維持・大規模修繕について

講師
建築診断協会代表 鷲尾 建志 氏

◉建物の経年劣化

現在建設されているマンションの多くは鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートでできています。それらは頑丈そうですが、毎年少しずつ劣化していきます。コンクリートは完全に乾くまでに約7年の期間を要し、完全に乾いてからも水分や温度などで劣化していきます。またこの劣化の程度は防水・シーリング(充填材でコンクリートの目地や亀裂の隙間を埋める工事)などの状態によってもさらに変化します。建物を長く維持させるためには、建物の状態を把握し、適切な時期に修繕を行う必要があります。

◉建築診断の進め方

建物の経年劣化(意匠・構造・設備)や耐震診断、アスベスト調査など建物に関する調査するのが「建築診断」です。今回はその中で経年劣化診断について取り上げます。

《問診》

建物の診断に入る前に、まずは図面を使い構造を確認し、改修履歴や気になっているところなどを問診します。また、居住者がいる場合には、アンケート調査を行い部屋の状況を確認します。

《1次診断》

1次診断で行うのは目視・打診調査です。

目視▼

建物の外壁や床、天井面などにひび割れ等がないかを確認します

打診▼

外壁モルタルやタイル等の浮き状態を把握する為、このテストハンマーを使用します。このハンマーで壁面や床面を軽く打撃し、その音の差異を耳で聞き分け、健全部か剥離部かの判断をします

触診▼

塗装の剥がれがないか、錆の発生がないかを確認します

ひび割れがある場合には、クラックスケールという道具を使い、ひび割れの幅から深さを予測します。このように大まかに建物の状態を診断した後、内部などのわかりづらい部分について2次診断を行います。

《2次診断》

2次診断では、調査する部分のサンプリングを行い、より詳しく診断していきます。

中性化試験▼

ドリルを使いコンクリートを抜き取り、空気中の二酸化炭素や酸性雨等で酸性に侵された深度を調べます

圧縮強度検査▼

耐圧試験機により、コンクリート片が破壊するまでの最大荷重を計測します

鉄筋検査▼

RCレーダー(コンクリート内部調査器)を当て、鉄筋の位置や径を調査します

◉必要な検査と不要な検査

前に述べたような検査をすべて行えばいいというわけではありません。必要な場所に必要な検査を行うことが大事になります。

例えば、塗装の耐用年数は2~5年、防水加工も5~7年です。タイルの付着力に関しても築20年を超えた場合、付着力が弱まり浮きが出るのは当然です。もともと耐用年数が来ている場合に、お金をかけてまで診断をする必要はなく、大規模修繕工事の際に再塗装や打ち替えをするべきです。耐用年数を知っておけば、異常な劣化にも迅速に対応でき、費用も抑えることが出来ます。

そのためには、建物の構造や以前いつ改修を行ったかなどを把握しておくことが重要になります。もともと、建築工事の中身は複雑で私たちが容易に理解できるものではありませんが、図面や契約内容を確認することで、建物の標準的な劣化を把握
できることはもちろん、破壊診断をしなくても鉄筋の量や配置を知ることが出来ます。他人から購入した物件や幾度も修繕を行っている物件では特に、書類の保管が重要になるでしょう。

◉さいごに

このように建築の劣化診断を始め建物の状態を把握していきますが、このほかにも建設工事や修繕の際に工事時期の検討や見積書の診断、業者さんのペースになりがちな建築会社やリフォーム会社との交渉も行います。建築に関する不安があるとは思いますが、依頼者の立場でさまざま問題を解決し、サポートしてくれる「建築診断」を上手に活用して、資産を健康な状態で長く維持していきましょう。

 

♥ 次回の財産承継研究会の開催日 ♥

2013年9月27日(金) 18時30分~20時30分

☎044-811-1211(石井・駒まで)

お申し込みは こちら

 


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