新型インフレ
欧米視察の報告から
先月号でも紹介したが、昨年、今年とアメリカ、イギリスなどへビジネスツアーに参加した当社社長の報告であるが、普通のラーメンが一杯7,000円だったという。日本以外の海外諸国のインフレの凄さに驚かされる報告であった。しかし、激しいインフレの悲鳴が聞こえてこなかったのは私だけであろうか。
欧米のインフレの特徴
その説明が河野龍太郎氏(著)『グローバルインフレーションの深層』「はじめに」の冒頭の書き出しにあった。
「2020年にパンデミック危機が世界を襲った。その後、2021年には、グローバルインフレーションが到来した。ゼロインフレが続いていた日本でも3〜4%まで物価上昇率が高まっている。」
「欧米の研究が示すのは、経済再開によるペントアップ需要(繰越し需要)に、先進各国の大規模な財政政策が加わり、おまけに金融引締めが遅れたということだ。一言でいえば、パンデミック危機対応の財政政策が過大だったということであり、需要ショックが原因である。」
欧米のインフレをこのように分析している。
日本のインフレ:新型インフレ
永濱利廣氏は日本の最近のインフレを「新型インフレ」と命名し、「今の経済状況は「新型インフレ」である。物価も上がる、株価も上がる、名目賃金も上がる。ただ、実質賃金が上がらない。したがって消費は増えず、人々はお金を貯め込み、日本経済全体の停滞が続く……。」
「今の日本では、需要サイドに起因するディマンドプルインフレではなく、ウクライナ戦争に円安が相まって、輸入価格の上昇を起点とするコストプッシュ型のインフレ(※1)が起きているのである。」
「そして、需要拡大が原因ではないのに物価が上がっている一方で、実質賃金の上昇が部分的にとどまっている。」
「物価も賃金も金利も、すべてがイレギュラーな状態にあるのに、それらが相互に複雑に絡み合っているという経済状態を、本書は「新型インフレ」と表現している。」(※2)。
スタグフレーションの兆し
また、永濱氏は新型インフレの状態をこれから来る「スタグフレーションの兆し」と指摘して、「インフレの進行と更なる実質賃金の低下」を見通し、スタグフレーション脱却の方法として「処方箋は支出支援」(※2)として提案している。
しかし、私は次に述べるように中間層が崩壊してしまった今、少々の〝支出支援〟ではスタグフレーション脱却は難しいと考えており、1つのアイデアを提案する。
中間層の崩壊
わが国はソ連崩壊によりグローバル・エコノミーの到来を期待し、直後に起きたバブル崩壊脱却の期待も込めて第一次・第二次の海外進出ブームがあり、中国のWTO加盟をグローバル・エコノミーの本格的な到来と捉え、中国へ大量の企業移転といってよいほどの進出をした。
このグローバル・エコノミーへの流れの中、そこで採用した新自由主義的な3つの大きな政策が、日本の衰退を決定づけたと思っている。
○賃金を固定費から変動費に変換する派遣労働法の改正
中堅サラリーマン層を崩壊させ新宿テント村を出現させた。あわせて賃金上昇メカニズムが崩壊した。
○駅前シャッター街を出現させた大型店舗法の改正
商業・サービス業経営者などの中間所得層を崩壊させた。
○極めつけは、中国のWTO加盟をグローバル・エコノミーの集大成と受け止めたこと
これが大企業、特に製造業の大量の海外移転を誘発し、国内の中小製造業を廃業に追い込んだ。その結果、中小企業経営者という中産階級が崩壊し、さらに大型店舗の撤退も重なって、地域コミュニティの崩壊まで招いた。
サラリーマン中間層、商業・サービス業・モノづくり製造業の経営者など中間層の崩壊が平成デフレの真因だと考えている。
1つの提案・こども年金
人口減少が激しい。少子化対策も何度か取り上げられたが、こどもの減少は止まらない。
そこで大型の「支出支援」としてこどもへの投資として「こども年金」(※3)を提案する。
出生時から生存権を保証する経済的保障として年20兆円近くを「こども年金」として、親には「こども育児手当」を支給してはどうであろう。安心して子育てできるように。
(※1)アンダーラインは筆者
(※2)永濱利廣氏(著)『新型インフレ』p. 103〜、p. 305
(※3)ほっとタイムス第304号
LR小川会計グループ
代表 小川 湧三

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