第84回 AIは敵か味方か?事務職の未来と価値が高まる「人間力」①
情報セキュリティ連載
第84回 試される人工知能の実力
【生成AI時代の働き方】AIは敵か味方か? 事務職の未来と価値が高まる「人間力」①
昨今、「生成AI」という言葉が、あらゆるビジネスシーンで聞かれるようになりました。「自分には関係ない」「専門家が使うものでしょう?」そう思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、その考えはもはや通用しなくなりつつあります。
生成AIは、事務職から営業職、企画、マーケティング、さらには管理職に至るまで、業種や職種を問わず、すべてのビジネスパーソンの働き方を根底から変える可能性を秘めています。
この連載では、3回にわたり、AIスキルを身につけることがなぜ重要なのか、そして未来の働き方はどう変わるのかを、分かりやすく解説していきます。第1回となる今回は、まずAIが私たちの仕事にどのような影響を与えるのか、そして来るべき変化に備え、私たちが今から高めておくべき「人間ならではのスキル」について掘り下げていきます。
1 生成AIは「賢いアシスタント」
まず、生成AIとは何かを簡単におさらいしましょう。これは、従来のAIのようにデータを分析するだけでなく、新しい文章、アイデア、要約などを自ら創り出せるAIを指します。有名なChatGPTなどがその代表例です。
これまでの技術、例えばRPA(Robotic Process Automation)が、決められたルール通りの定型作業を代行する「手足」の自動化だったのに対し、生成AIは、自然な言葉を理解し、文脈を読み取り、推論まで行う「頭脳」の拡張と表現できます。
資料の要約やメールのドラフト作成、さらには企画のアイデア出しまで、これまで知識労働者が時間をかけて行っていた知的作業の一部をサポートしてくれる、非常に優秀なアシスタントだと考えていただくと分かりやすいでしょう。
2 AIが得意な業務、人間が担うべき業務
では、この優秀なアシスタントは、具体的にどのような業務を得意とするのでしょうか。国際労働機関(ILO)などの調査によれば、特に以下のような、反復的・ルールベースのタスクはAIによる自動化が進むと予測されています。
• 定型的なデータ入力
• 会議の議事録作成(文字起こしと要約)
• 定型文書(レポートや社内通達など)のドラフト作成
• 単純な翻訳作業
これらの業務が自動化されることで、私たちはこれまで多くの時間を費やしてきた単純作業から解放されます。そして、その結果生まれた時間を使って、より付加価値の高い、人間にしかできない業務に集中できるようになるのです。
3 役割の変化:「実行者」から「指揮者」へ
AIがタスクの一部を担うようになると、私たちの役割も変化します。これまでは、与えられたタスクを正確に「実行する人(Doer)」としての側面が強かったかもしれません。しかしこれからは、AIというアシスタントをうまく活用し、その成果を管理・監督する「管理者・指揮者(Manager/Orchestrator)」へと役割がシフトしていきます。
具体的には、以下のような動きが求められます。
「AIが作成した文書のドラフトをレビューし、ビジネスの目的に合わせて修正・改善する」
「AIが分析したデータに基づき、潜んでいる課題や新たな機会を発見する」
「AIが出したアウトプットが本当に正しいか、偏りがないかを批判的に評価する」
いわば、AIという優秀な部下をマネジメントし、その能力を最大限に引き出してチーム全体の成果に繋げる、プロジェクトリーダーのような役割が、すべての事務専門職に求められるようになるのです。
4 AI時代に輝く3つの「人間力」
AIが知的作業を代行するようになると、相対的にAIには模倣できない、人間固有のスキルの価値が飛躍的に高まります。特に重要になるのが、以下の3つのスキルです。
5 コミュニケーションと共感力
お客様や同僚の言葉の裏にある意図や感情を汲み取り、信頼関係を構築する能力です。デリケートな交渉やクレーム対応など、感情的な配慮が求められる場面で、人間の共感力は不可欠です。
批判的思考と問題解決能力
AIの回答を鵜呑みにせず、その情報の正確性や潜在的なバイアスを見抜く力です。また、複雑な問題の根本原因を特定し、既存の枠にとらわれない創造的な解決策を立案する能力も、ますます重要になります。
戦略的思考と「問いを立てる力」
AI時代に最も重要なスキルとも言われます。AIは与えられた「問い」に答えるのは得意ですが、ビジネス価値に直結する「正しい問い」を立てることはできません。自社の事業目標を深く理解し、解決すべき課題を的確に定義し、それをAIが処理できる具体的な質問に落とし込む能力が、生産性を左右する決定的な差となります。
まとめ
今回は、生成AI時代の働き方の序章として、以下の点について解説しました。
❖ 生成AIは、知的作業を支援してくれる「賢いアシスタント」である
❖ AIの台頭により、定型的なタスクは自動化され、人間はより高度な業務へシフトする。私たちの役割は、タスクの「実行者」から、AIを使いこなす「指揮者」へと変化する
❖ AIにはない「共感力」「批判的思考」「問いを立てる力」といった人間力が、将来の価値を高める
AIの登場は、仕事を奪う脅威ではなく、私たちを単純作業から解放し、より創造的で人間らしい仕事へと導いてくれる変革の機会なのです。
次回は、このAIという賢いアシスタントの能力を最大限に引き出すための具体的なスキルであり、これからのビジネスパーソン必須の教養ともいえる「プロンプトエンジニアリング」について、分かりやすく解説します。

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