第81回 現実世界を動かすAI:Waymoの自動運転技術①
前回までの記事は、私たちの言葉を理解し、驚くほど自然な文章やプログラムコード、さらには独創的な画像を生成する「生成AI」の世界を探求しました。ChatGPTや新星DeepSeekといった技術は、まさに日進月歩で進化を続け、私たちの働き方や創造性を大きく変えようとしています。これらは主にデジタル空間で「情報」を扱うAIと言えるでしょう。
しかし、AIの活躍の舞台はそれだけではありません。今、現実世界の複雑な状況をリアルタイムで認識・判断し、物理的な「行動」を実行するAI技術もまた、目覚ましい発展を遂げているのです。
その代表格が、今回焦点を当てる「自動運転技術」の分野です。
中でも、完全自動運転の実用化をリードするAlphabet傘下のWaymo(ウェイモ)の取り組みを通じて、その核心技術と社会にもたらす変化の兆しについて詳しく見ていきましょう。Waymoは2009年にGoogleの秘密研究部門「Google X」のプロジェクトとしてスタートし、以来十数年にわたり、一貫して完全自動運転の実現という困難な目標に挑み続けてきました。
現実世界を動かすAI:Waymoの「認識・予測・計画」
Waymoの自動運転システム「Waymo Driver」の心臓部には、人間ドライバーの能力に匹敵、あるいはそれを超えることを目指して開発された高度なAIが搭載されています。このAIは、「認識」「予測」「計画」という3つの重要な役割を緊密に連携させながら実行します。
まず「認識(Perception)」では、車両周囲の状況を正確に把握します。車両には、最大300メートル先まで検知可能な独自開発の長距離LiDAR(ライダー)を含む複数のLiDAR、高解像度カメラ、そして悪天候下でも機能するミリ波レーダーといった多様なセンサーが搭載されています。
これらのセンサー群は、それぞれ異なる特性を持ち、互いの弱点を補完し合います。AIは、これらのセンサーから送られてくる膨大な情報を瞬時に統合・分析(センサーフュージョン)することで、単一センサーでは得られない冗長性とロバスト性(頑健性)を確保します。
これにより、他の車両、歩行者、自転車、動物、道路上の落下物、信号機の色や形状、道路標識の内容、さらにはパトカーや救急車などの緊急車両のランプの点滅まで、360度全方位の環境を詳細かつ正確に見分けます。
WaymoのAIは、初期のルールベースのアプローチから、深層学習、特に畳み込みニューラルネットワーク(CNN)や、近年自然言語処理で大きな成果を上げているTransformerアーキテクチャなどを取り入れ、進化を遂げてきました。
生成AIが大量のテキストや画像を学習するように、WaymoのAIは、これまでに公道で数十億キロメートルに相当する実走行データと、さらにそれを遥かに上回る数十兆キロメートルもの仮想走行データ(シミュレーション)を通じて、雨の日も、霧の日も、夜間でも、そして逆光のような厳しい条件下でも、周囲の状況を的確に認識する能力を磨き上げてきました。
次に「予測(Prediction)」、あるいは行動モデリングです。周囲の状況を静的に認識するだけでなく、他の交通参加者が「次にどう動くか」を確率的に予測することが、安全マージンを確保する上で極めて重要です。
WaymoのAIは、過去の膨大な走行データから学習した様々な行動パターンに基づき、例えば「隣の車線の車は数秒後に車線変更する可能性が高い」「横断歩道の手前で待つ歩行者は、こちらの車が通過するのを待つだろう」「自転車は路肩に寄って走行するだろう」といった動きの可能性を、対象ごとに複数、ミリ秒単位で計算します。この予測能力があるからこそ、潜在的な危険を未然に察知し、急ブレーキや急ハンドルといった危険な操作を避け、スムーズで安全な対応をとることが可能になるのです。
最後に「計画(Planner)」、すなわちモーションプランニングです。認識と予測の結果を踏まえ、AIは自車が進むべき最適な経路、速度、加速度、ハンドル操作などを決定します。安全性はもちろん最優先ですが、同時に乗り心地の良さ(急な加減速や揺れの抑制)、交通法規の遵守、そして交通流全体のスムーズさ(効率性)といった複数の要素を考慮しながら、リアルタイムで最適な運転計画を立て、実行に移します。
例えば、道路工事で車線が減少している場合、早めに適切な車線に変更する、あるいは合流地点で他の車とスムーズに譲り合うといった、人間ドライバーが経験に基づいて行うような複雑な判断をAIが行います。
その能力は、Waymoが開発した高度なシミュレーション環境「Carcraft」において、現実世界ではめったに遭遇しないような危険なシナリオ(ニアミス状況など)を含む、膨大な数の仮想テストを通じて徹底的に検証され、常に改善が続けられています。
▶︎次回に続く

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