第88回 【SFから産業インフラへ①】AI搭載ロボット量産化の夜明け
情報セキュリティ連載
第88回 試される人工知能の実力
【SFから産業インフラへ①】AI搭載ロボット量産化の夜明け
今回から複数回にわたり身体能力を得だしているAIについて考察してきたいと思います。
AIが「身体」を持ち、物理世界で「労働力」となるこの大転換は、すでに具体的な産業インフラ化、すなわち「量産化」のフェーズへと進み始めています。
人型ロボットFigure03の衝撃的な動画(QRコードからご覧いただけます)をご覧いただければ分かる通り、生成AIを搭載したロボット(以下、ヒューマノイド)が、人間と自然な対話を行いながら物理的なタスクを遂行する能力は、もはやSFの世界ではありません。この技術革新が、製造業、物流、さらには家庭内に至るまで、あらゆる分野にどれほど甚大な影響を及ぼすか、その片鱗が示されています。
1 AIが「労働力」となる時代の幕開け
生成AIが私たちの生活やビジネスの風景を急速に塗り替え始めてから数年、今、その進化は新たな次元へと突入しようとしています。これまで主に情報空間(Information Space)でテキストや画像を生成してきたAIは、「身体」を手に入れ、私たちが存在する物理空間(Physical Space)での「労働力」として現実世界に登場する目前に迫っています。これはもはや遠い未来のSFの話ではなく、具体的な生産計画を伴う「産業的現実」です。
2 牽引役テスラの野心
この変革を力強く牽引しているのが、テスラ、Figure AI、Agility Roboticsといった先進企業です。電気自動車と自動運転技術で世界をリードするテスラは、そのAI技術、ニューラルネットワーク、センサー技術を応用し、ヒューマノイドロボット「Optimus」を開発しています。同社は2025年に1万台、2027年には50万台という極めて野心的な生産目標を掲げており、AIが物理世界で価値を生み出す時代の到来を告げています。
3 物理世界を巡るプラットフォーム競争
2022年設立のスタートアップでありながら、驚異的なスピードで業界の注目を集めるFigure AIは、その好例です。同社は設立後わずかな期間でBMWの米国工場と商業契約を締結し、研究室レベルのデモではなく、実際の製造現場という実環境での導入を開始しました。 さらに、Microsoft、OpenAI、Nvidia、そしてAmazon創業者ジェフ・ベゾスといった巨大資本がFigure AIに戦略的投資を行っている事実は、この動きが単なるハードウェア開発競争ではなく、AIの次のフロンティアを巡るプラットフォーム競争であることを示しています。情報空間を制覇したAIが、次なる活躍の場として物理世界への「出口」であるヒューマノイドという「身体」を求めているのです。
4 投資が加速する背景
では、なぜ今、これほどまでにヒューマノイドロボットへの投資が加速しているのでしょうか。その背景には、現代の産業社会が直面する深刻な課題、すなわち「労働力不足」と「労働安全の確保」という二重の要請があります。経済産業研究所(RIETI)の分析が示すように、歴史的に技術革新は、労働力不足と賃金高騰に対する「省力化」や、危険な作業から人間を解放する「安全確保」を目的として導入されてきました。
まさに現代のヒューマノイド開発は、この歴史的文脈と完全に一致します。Figure AIは「製造や物流といった労働力不足が深刻な業界の課題解決」をミッションに掲げ、AmazonがAgility Roboticsの「Digit」を導入する目的も、倉庫内での反復的で危険な作業から人間を解放することにあります。
5 ヒューマノイドが持つ圧倒的な柔軟性
従来の産業用ロボットが特定の溶接や組み立てしかできない「特化型」であったのに対し、現代のヒューマノイドは人間用に設計された環境で、様々なタスクをこなせる「汎用型(General-purpose)」を目指している点が根本的に異なります。これにより、企業はロボット導入のために工場のレイアウトを根本的に変更する必要がなくなり、導入コストと柔軟性が劇的に改善されます。
6 求められる人間の役割
この産業構造の変化は、必然的に私たち人間の役割にも根本的な移行を迫ります。物理的な作業そのものがロボットに置き換わるにつれて、人間に求められるのは「ロボットに何をすべきかを指示する」という、より高レベルな「指示・管理」の役割へとシフトしていくのです。この役割の移行こそが、本稿の核心であり、次世代の労働者に必須となるスキル「的確な指示(プロンプト)を送る能力」の重要性を強く示唆しています。
次回は、ヒューマノイドを操作するうえでの大きな壁についてお話したいと思います。
《参考文献》
『覆面AIがいる日常、米国発の生産性革命 行き着く先は超成長か破滅か-AIが変えるアメリカ』2025年11月11日付 日経速報ニュース
『AIとの共生 SF小説で道探る――SF作家の予見、未来に思い馳せ(何でもランキング)』2025年10月25日付 日経プラスワン
『コンビニ「人型」レジ係 東大発新興、AI活用 店舗業務3~5割代替』2025年8月20日付 日本経済新聞
『ヒト型ロボット1日10万円から貸し出し GMO、AI搭載で接客にも対応』2025年11月8日付 日経速報ニュース
figure03の動画(Youtube)

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