第86回 個人から組織へ!AIと共に進める「業務プロセス改革」

情報セキュリティ連載
第86回 試される人工知能の実力
【生成AI時代の働き方③】個人から組織へ!AIと共に進める「業務プロセス改革」

さて、3回にわたる【生成AI時代の働き方】もいよいよ最終回です。

①では職種を問わず重要となる「人間力」を、②では全てのビジネスパーソンの必須スキルとなる「プロンプトエンジニアリング」を解説しました。AIを使いこなすための基礎的な考え方とスキルは、ご理解いただけたかと思います。

最終回となる③は、その個人のスキルを、どのようにして組織全体の力へと昇華させていくか、その具体的なステップである「業務プロセス改革(BPR)」について、先進企業の事例を交えながらご紹介します。

個人のスキルアップが、会社全体の競争力をいかに高めていくのか、そのダイナミックなプロセスをご覧ください。

1 ステップ1:チームで挑む「パイロットプロジェクト」

個人レベルでAIの有効性を実感できたら、次のステップは組織的な活用です。その第一歩として有効なのが、「パイロットプロジェクト」です。これは、特定の部門の特定の業務に的を絞り、効果を測定しながらAI導入を試みるアプローチです。

例えば、経理部門の「請求書処理業務」を対象に、AIとRPA(Robotic Process Automation)を組み合わせたプロジェクトを実施します。

これにより、削減できた時間やエラー率の低下といった具体的な効果を定量的に測定することが可能になります。こうした小さな成功事例を積み重ね、その知見を社内で共有していくことが、全社展開への重要な布石となります。

2 連携が生む相乗効果:AIとRPAによるハイパーオートメーション

ここで鍵となるのが、生成AIとRPAの連携です。この2つは競合するものではなく、互いを補完し合う共生関係にあります。

RPA(手足):あらかじめ定義されたルールに従い、構造化されたデータを処理する「実行部隊」

生成AI(頭脳):PDFのような非構造化データを理解・判断し、新たなコンテンツを生成する「司令塔」

この「頭脳」「手足」が連携することで、ハイパーオートメーション(超自動化)と呼ばれる、より高度な業務自動化が実現します。

例えば、請求書処理のワークフローは以下のようになります。

⒈ 【AI】AI-OCRがPDF形式の請求書を読み取り、内容を理解してデータを抽出する。
⒉ 【AI】生成AIがその内容を要約し、必要に応じて取引先への確認メール文面を自動作成する。
⒊ 【RPA】RPAが抽出されたデータを会計システムへ正確に入力し、作成されたメールを自動で送信する。

このように、「思考」「実行」を組み合わせることで、これまで必ず人の手が必要だった非定型業務のエンドツーエンドの自動化が可能になるのです。

3 ステップ2:AIを前提に仕事のやり方を再設計する「BPR」

パイロットプロジェクトで成功の確信が得られたら、いよいよ最終段階である「全社展開と業務プロセス改革(BPR)」へと進みます。

ここでの最も重要なポイントは、単に既存のプロセスをAIで効率化するのではなく、AIの存在を前提として、業務プロセスそのものをゼロベースで再設計(リエンジニアリング)することです。

これは、視点を「このタスクをAIでどう効率化できるか?」から、「AIがあるならば、この業務全体の最適なプロセスは何か?」という、より高次の問いへと転換することを意味します。

この段階の成功には、従来のやり方にとらわれない大胆な発想と、経営層の強力なリーダーシップが不可欠です。

4 AIがくれた「時間のプレゼント」の本当の価値

BPRを通じて、多くの企業は驚異的な時間削減を達成しています。三菱UFJ銀行では月間22万時間もの労働時間削減が見込まれています。

しかし、ここで経営層が直面する最も重要な戦略的問いは、「我々はこの削減した時間で何をするのか?」ということです。

この創出された「時間の配当(time dividend)」を、単なるコストカットや人員削減に繋げるだけでは、AIがもたらす便益は一時的かつ限定的なものに終わってしまいます。

真の競争優位を築く企業は、この時間を、イノベーション、新規事業開発、高度な戦略立案、顧客との関係深化、そして従業員の再教育といった、より付加価値の高い活動へと戦略的に再投資します。

これこそが、AIを活用した真のBPRの核心なのです。

まとめ

3回にわたる連載を通じて、生成AIがもたらす働き方の変革について解説してきました。

• AI活用は、個人のスキルアップから始め、チームでの「パイロットプロジェクト」へと繋げていくのが効果的です。

• AIの「頭脳」とRPAの「手足」を連携させることで、高度な業務自動化が実現します。

• 最終的には、AIを前提として業務プロセス全体を再設計する「BPR」を目指します。

• AIによって創出された「時間」を、いかに創造的な活動に再投資するかが、企業の未来を左右します。

AI駆動型オフィスへの移行は、もはや避けることのできない潮流です。この変革を主導し、AIと共に新たな価値を創造していく。その先には、より生産的で、人間らしい働き方が待っているはずです。

この連載が、皆様にとって未来の働き方を考える一助となれば幸いです。

 

 

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