第82回 現実世界を動かすAI:Waymoの自動運転技術②
情報セキュリティ連載
試される人工知能の実力
前回は、デジタル空間で情報を扱う生成AIとは対照的に、現実世界で物理的な「行動」を実行するAI技術として自動運転に焦点を当てました。特に、Alphabet傘下のWaymo(ウェイモ)が開発する自動運転システム「Waymo Driver」を取り上げ、そのAIがいかにして周囲の状況を「認識」し、他の車や歩行者の動きを「予測」し、安全かつスムーズな運転を「計画」しているのか、その核心技術について解説しました。
今回は、その高度なAIの判断を支えるもう一つの重要な要素である「高精度地図(HDマップ)」から話を始め、Waymoが目指す自動運転のレベル、米国でのサービス実績、そして現在進めている日本(東京)での活動について、さらに詳しく見ていきましょう。
AIの「羅針盤」となる高精度地図(HDマップ)
Waymoの優れたAIを支える、もう一つの欠かせない屋台骨が、センチメートル単位という驚異的な精度を持つ「高精度3次元地図(HDマップ)」です。これは、私たちが普段使うカーナビの地図とは全く異なり、車線の正確な位置や幅、種類(実線、破線など)、縁石の高さや形状、中央分離帯、信号機や一時停止標識、速度制限標識などの種類と正確な3次元位置、横断歩道、さらには道路の勾配やカント(傾き)といった、道路インフラに関する詳細な静的情報が記録されています。
AIは、リアルタイムのセンサー情報(LiDARで捉えた点群データなど)とこのHDマップを常に照らし合わせることで、自車が今、地図上のどこにいるのかを極めて正確に把握(自己位置推定)します。GPSだけでは数メートル単位の誤差が生じますが、HDマップとの照合により、センチメートルレベルでの正確な位置特定が可能になります。これにより、例えば霧や大雨でセンサーの視界が悪化した場合や、トンネル内などでGPS信号が届かない状況でも、AIは自車の位置を見失うことなく、安定した走行を継続できるのです。
WaymoはこのHDマップを、サービスを展開する全てのエリアにおいて、専用の計測車両を用いて自社で作成し、道路工事や新しい標識の設置、交通規制の変更など、変化する道路状況に合わせて常に最新の状態に保つための継続的な更新プロセス(マッピングエコシステム)を構築・運用しています。これが、安全で信頼性の高い自動運転サービスを提供する上での基盤となっています。
目指すは「レベル4」:人が運転から解放される未来
自動運転技術は、その能力に応じてSAE International(米国自動車技術会)によってレベル0からレベル5までの6段階に分類されています。Waymoが一貫して目指し、そして既に一部で実現しているのが「レベル4:高度運転自動化」です。
これは、高速道路や特定の市街地区域、あるいは特定の天候条件下など、あらかじめ定められた運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)内においては、システムが全ての運転タスクと運転操作(加速・操舵・制動)を行い、ドライバーは運転に全く関与する必要がない状態を指します。システムが作動困難になった場合でも、人間の介入を期待せず、システム自身が安全に車両を停止させるなどのリスク最小化措置を実行できる能力が求められます。
まさに「条件付き完全自動運転」と呼べる水準であり、レベル3(条件付き運転自動化、システム作動困難時はドライバーの介入が必要)とは一線を画します。
Waymoの自動運転技術を支える高精度地図(HDマップ)の重要性と、Waymoが目指す自動運転のレベルについて解説しました。HDマップは、AIが自車の位置を正確に把握するために不可欠であり、安全な自動運転を実現するための基盤となっています。
また、Waymoはレベル4の自動運転、すなわち条件付き完全自動運転を目指しており、このレベルの自動運転は、特定の条件下でドライバーが運転から完全に解放されることを意味します。
次回は、Waymoが米国でどのように自動運転サービスを展開してきたのか、そして現在、東京でどのような活動を進めているのかについて詳しく見ていきます。AIが現実世界をどのように変えようとしているのか、その未来への展望についても考察します。
▶︎次回に続く

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