一時代の終焉
小さな発表
「実にあっけない幕切れだった。日鉄は中国合弁の解消を説明する記者会見はおろか、東京証券取引所への適時開示すらせず、自社のホームページで告知したのみ。それも、本文が4行余りという実に簡素な文面だった。」(※1)
宝山製鉄所は後でも紹介するが、日中国交再開後の最大の事業として日本の国力を上げて取り組んだ事業である。この日中の国を挙げての協力は山崎豊子氏の「大地の子」のモデルになって広く知られている。
この日中協力のシンボル的な事業がすべて解消したのである。
宝山製鉄所
日本製鉄が合弁を解消した宝山製鉄所は日本と中国の交流のシンボルでもあった。
日本経済新聞に簡潔に紹介されているので引用する。(※1)
「発端は田中角栄政権が結んだ日中国交正常化だった。直後に中国の周恩来首相が新日本製鉄(現日本製鉄)の稲山嘉寛社長と会談し、武漢製鉄所の近代化を要請した。続いて鄧小平副総理が来日し、稲山氏に新鋭製鉄所の建設を依頼した。
日鉄は述べ1万人もの人員を動員し、85年に完成したのが宝山鋼鉄の中核をなす上海宝山製鉄所だった。」
「赤頭巾」を被った狼:中国
中国は赤頭巾を被った狼に例えてもおかしくはない。
中国が自由民主資本主義から国家資本主義へ変容し世界を変えた。
自由主義社会では個人の活動、特に経済活動には政府の介入をできるだけ少なくしようとしている。しかし、資本主義は放っておくと資本の集中が起きるので、独占を排除するように「独占禁止法」を定め巨大企業の「分割命令」や独占による競争阻害を「排除措置命令」により取り除き、自由に競争ができるよう制度上保証されているといってよい。
しかし、中国は国民の自由などはなく、チベット・ウイグル・香港などを見ても解るように国家の意思を優先し、共産主義的国家独裁による毛沢東以来の「計画経済」から鄧小平氏を経て「国家資本による資本主義的経済」という新しい独占統制経済体制を作りだし「資本による統治」「中国市場を外交上の武器」とする新しい統治手法を編み出した。
資本提携による合弁会社という「赤頭巾」の中にある資本が、いつの間にか国家統制資本(狼)にすり替わり支配されてしまった。
鄧小平氏が語った「韜光養晦(とうこうようかい)」(爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術)の通りになった。僅か30年、儚い「グローバル・エコノミー」という泡沫(うたかた)のごとき夢の終焉、時代が変わった。
目が覚めるか日本
25年前中国に駐在していたある駐在武官の話である。(※2)
「私が驚いたことの一つが、世界の軍人たちの日本観であった。
『日本は19世紀のアジアで西欧列強の植民地にならなかった国であり、維新から25年で眠れる獅子と言われた清を破り、35年で軍事大国ロシアを倒して列強と肩を並べ、70年で米国を筆頭とした世界各国を相手に戦い、最後は原爆まで投下され完膚無きまでに叩かれた。日本国内は焼け野原になったにもかかわらず、そこから10年で復興、20年でGDP世界第2位になった特別な国、特別な民族であるが、日本人の危機に対応できる強さの源泉がいったい何であるのかを知りたい』との説明がなされ、これは多くの情報将校たちの本音の疑問でもあった。」
このような世界の憧憬を集めた日本はどこへ行ってしまったか。
少子高齢化社会を迎え、毎年一つの県が消滅するほど人口減少に見舞われている現在の日本の姿は、中国の習近平氏が「国家資本主義」を明確に打ち出した2010年代を契機に特に顕著に生じている。このような日本が、今後どのような「かたち」で再興を図っていくのであろうか。
中国の共産主義独裁体制から、あるいは、資本主義の変質から自由民主主義をどのように守っていくのか問われている。
いくつかの課題があるが、特にトマ・ピケティ氏が指摘するように資本主義の中に内在する格差の拡大を抑制する必要がある。
私は自主独立の精神を謳った「武士道」と渋沢栄一氏の「論語と算盤」あるいは近江商人の「三方よし」の精神に則った日本古来の「和の精神」でこれからの世界の思想をリードし、日本が再興することを願っている。
(※1)7月25日付日本経済新聞
(※2)「J2TOP」2024年8月号時事通信社
LR小川会計グループ
代表 小川 湧三

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