未知の領域

FRB連続利上げの背景

会長

FRBは今年の3月以来金利を引き上げてきた。

3月0.5%、以後4回連続0.75%(計3.5%)という異常な金利引き上げを行い世界経済に大きな影響を及ぼしている。

日本はFRBの利上げについていけず約半年で1ドル110円から150円まで円安に振れて当局の為替介入を招いた。

なぜ、FRBがこのような急激な金利引き上げを行っているのかわからなかったが、渡辺努氏の「世界インフレの謎」を読んで理解できた。

世界の中央銀行が政策判断の基礎にしている失業とインフレに関する「フィリップス曲線」と政策金利の水準を示す「テイラールールが示す予想金利水準」の値に異常(〇印)が発生していたのである。

フィリップス曲線の異常

米国のフィリップス曲線

フィリップス曲線はインフレ率と失業率の関係を表した指標であるが、コロナ禍の期間中のフィリップ曲線は今までと全く違った動きをし失業率に関係なくインフレ率が高まっている異常な状態を示しているのである。

予想金利水準の異常

もう一つの指標、テイラールールによる予想金利水準(※)は2020年以来▲5%から6%まで異常ともいえる水準を示している。

テイラールールによる予想金利水準はインフレ率とGDPから望ましいインフレ率(インフレターゲティングの目標値)を実現するために必要な金利水準を割り出すことができる公式で、日銀を含む主要各国の中央銀行はこれを意識して政策運営を行っている。(※)

テイラールールが指示する金利水準

政策決定の指標

FRBはインフレ・物価水準と雇用の維持を使命としてその活動をしている。だから、インフレ率と失業率の関係を表しているフィリップス曲線を重視し、また、望ましいインフレ率へ誘導するためのツールとして、テイラールールによる予想金利水準を目安に政策決定を行っていて(※)この指標に異常が生じているのである。

テイラールールは足元のインフレ率とGDPから、望ましいインフレ率を実現するために必要な金利水準を割り出すことができる公式で、日銀を含む主要各国の中央銀行はこれを意識して政策運営を行っているといわれている。2022年春からこの金利が▲5%から一気にインフレの進行に伴い6%の金利を示してたのである。

これを見るとFRBがなぜ通常の利上げを超えて3倍速の利上げを行ったのか背景が理解できた。

供給インフレ・未知の領域

このような異常なぶれはなぜ生じているのか、過去のインフレは全て景気過熱による需要インフレだったが、今回のインフレはコロナ・米中対立・パンデミック・ウクライナ戦争に起因した供給サイドからくるインフレで、今まで経験したことがない要因によるインフレであるといわれている。

一例を挙げれば、米国のインフレは労働供給不足に起因しており、需要ではなく供給不足によって生じているのであって、現代物価理論の盲点だそうだ。

物流の停滞、コロナによる生産の停滞などにより縮小した供給に合わせるため、物価が上がるインフレで調整するのは経済学的にいえば理にかなった調整ではある。

しかし、急激なインフレは国民生活を直撃するため、FRBはやむを得ず今までどおりの利上げによりインフレを抑え込む政策をとり経済の縮小を目指している。コロナ後の経済は、グローバル経済からブロック経済への流れの中で、未だ経験したことのない縮小均衡という未知の領域に入るかもしれないのである。

(※)p.220~『テイラールールが指示する金利水準』世界インフレの謎/渡辺努

 

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代表 小川 湧三

 

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